接客力という数値化できない価値
飲食業とは接客業であるとつくづく思う。
とはいえ昨今ではどうしても数値化できる要素が重視されがちだ。
やれコスパだの、タイパだの。
コロナ禍を経てテイクアウト文化が浸透し、冷凍技術も飛躍的に進化した。
今やわざわざ店に足を運ばなくても、自宅で“店クオリティ”の料理を楽しめる時代。
それでも、だ。
いや、だからこそ――
今回はいきつけ店のレビューと「接客力こそ飲食業の柱である」というお話し。
青山 川上庵
初めて訪れたときの接客に感動し、月イチの贅沢としてすっかり定着した。

▶店舗詳細
平日木曜日、11時過ぎに訪問。
今日はカウンター席に通された。
うん、一度カウンターで食べてみたいと思っていたんだ。
この時点でもうちょっぴりウレシイ。

いつもの店員さんが声をかけてくれる。
ほんの一言、挨拶を交わす程度のやり取りだ。
それでも、この「覚えてくれている」という感覚が心地いい。
都内、特に青山界隈なら一見のインバウンド客だけでも店は回るだろう。
たとえ月イチの来店であってもリピート客を覚えてくれる。
このことが心から嬉しく感じる。
注文は概ね決めてきたが、、、
席に座りメニューを開く。
いや、実は大体決めてある。
しかし私は器と肝っ玉が非常に小さい。
まだ食べたことのない料理が気になる、でも以前食べたあの料理も捨てがたい。
うーん、、、

そこへいつもの店員さん。
「本日はどのような気分でしょうか?」
「まだお試しになったことのない料理が気になりますか?」
!!
なんでわかった?!
ニュータイプかいな。
素直にその旨を伝える。
「今日も日本酒を召し上がりになるようでしたら、前菜に鞍掛豆、途中でニシンの煮付け、そば味噌をつまむのはいかがでしょう?」
もう、どうにでもして。
すべてを預けられるこの安心感。
さすが。

たかがビール、されどビール
酒類を提供する店において客が最初に口にすることが多いのはビールだ。
この一杯目は店の印象を大きく左右する。
川上庵の場合、毎回ちょっとした感動がある。
私がいつも注文するのはヱビスビール。
当然、専用のサーバーから注がれ鮮度管理は徹底。
きめ細やかな泡をまとった一杯が提供される。
そしてビール本体と同じくらい重要なのがグラス。
飲み進めるにつれ、グラスに浮かぶ美しいベルジャンレース。

これは清潔なグラスでなければ決して生まれない。
さらに特筆すべきはグラスの薄さ。
分厚く十分に冷えていないグラスではグラスの熱がビールに伝わってしまう。
一方、薄いグラスは温度変化が少なく最後まで味のブレがない。

だがデメリットも当然ある。
単純にグラスの生産コストが高い、そして管理の手間。
薄いグラスは脆く、扱いには細心の注意が必要だ。
磨く工程ひとつ取っても手は抜けない。
それでもなお、顧客満足度を優先する。
この姿勢がビール一杯からでもはっきり伝わってくる。
今日の料理たち
鞍掛豆

側面の模様が乗馬で使う鞍に見えることが由来。
長野ではパンダ豆とも呼ばれているそうだ。
こういった小話を添えてくれるのもこの店の価値だと思っている。
ニシンの煮付け

とても食べやすい。
生臭さは全くない。
白米と味噌汁を付ければ、それだけで一軒店が出せるレベル。
そば味噌

今回の訪問で予想を遥かに超えてきた一品。
旨みが何層にも折り重なって立体感のある味わいが楽しめる。
添えられた生野菜はもはや食べるカトラリー。
味噌=調味料という固定概念を軽々と打ち砕いてくれた。
日本酒 雛
ヱビスビールを飲み終えたころ、「お次はどうなさいますか?」と声がかかる。
メニューには載っていないがタイミングによって季節限定の日本酒があるという。
雛

「このお酒は今日入荷したばかりで、まだ私も試飲していないんです。」
「フルーティで飲みやすいと評判ですが、正直お口に合うかどうか、、、」
「以前、辛口がお好きと伺っているので。」
それでいい。
いや、それがいい。
求めているのは正解じゃない。
大切なのはどの場所でどんな経験をしたか。
情報なんて、今やいくらでも手に入る。
ChatGPTに聞けば自分に合う酒くらいすぐ分かるだろう。
でも本当に大事なのは経験することだ。

、、、で味。
やさしい。
フルーティというより、とても柔らかな味わい。

芯はしっかりしていて飲み応えもある。
こういった経験をさせてくれるところも川上庵の魅力だと確信している。
日本酒 斬九郎とせいろ
今日は斬九郎も頂いた。

キレのある、はっきりとした辛口。
余計な甘みはなく飲み口は驚くほどスッキリしている。
この酒が真価を発揮するのがニシンの煮付けや、そば味噌といった濃い一品料理と合わせたとき。
濃さを受け止めつつ後味をきれいに斬ってくれる。
料理の輪郭をぼかさず、むしろ引き立てる。
酒が主張しすぎないからこそ料理がもう一段階、前に出てくる。
だから、ついもう一口もう一品と進んでしまうのが魅力だ。
最後にせいろ。

これがきちんと〆として完成されている。
まず、コシ。
しっかりとしていて食べ応えがある。
決して重たくはないが、「食べた」という満足感をきちんと残してくれる。
そして喉越し。
とても爽快だ。
するりと抜けていく感覚が心地よく、自然と箸が進む。
酒と濃い料理を一通り味わったあと。
少し張った身体と感覚を、静かにリセットしてくれる。

派手なフィナーレではない。
ただ、あるべき場所に収まっていく。
「整う」という言葉がピタリと当てはまる。
そんな清々しさがあるんだ。
まとめ|また来たくなる理由は、料理の先にある
料理が美味しいのは、もはや前提条件だ。
川上庵が特別なのは、その先にある。
・たとえ月イチ訪問でも顔を覚えてくれること。
・こちらの気分を察してくれること。
・未知の体験をあえて差し出してくれること。
数値では測れない価値が確かにここにはある。
だから私はまた翌月もここに戻ってくるだろう。
都会の路地裏で、ひっそりと。

店舗詳細
川上庵
<所在地>東京都港区南青山 3-14-1
<TEL>03-5411-7171
<営業時間> 昼 11:00 ~ 16:00 夜 16:00 ~ 22:30(21:30 LO)
月に一度店舗ミーティングを行う為、16:30-18:00にて休業している場合あり。
<定休日>なし
<公式HP>川上庵|蕎麦・そば(軽井沢・青山・麻布十番)
実名口コミグルメサービスNO.1【Retty】

コメント